福岡トレンド

2012.05.28/COLUMN

アジアの文化 -日韓少女漫画事情1(1/2)

韓国で愛される日本の少女漫画
―1960年代から現代まで、日本漫画はいつも人気―
福岡女学院大学人文学部現代文化学科 准教授 佐島 顕子


 人気の韓流映画・ドラマ、実は日本の少女漫画が原作になっていることがある。日本の少女漫画のツボが韓国のクリエイターを刺激し、韓国で再構築された世界が日本人の胸を熱くする。我々は感動を共有する隣国同士である。

ヒット作品の原作は日本漫画
 2009年春に日本で公開された韓国映画『アンティーク』(監督ミン・ギュドン、主演チュ・ジフン)の原作は、よしながふみの『西洋骨董洋菓子店』。日本を含めアジアでヒットした映画『カンナさん大成功です』(監督キム・ヨンファ、主演キム・アジュン)も、原作は鈴木由美子の同名漫画。神尾葉子の『花より男子』も韓国でドラマ化されている。韓国の映画・ドラマ制作者が素材を探す時、日本の少女漫画は身近なコンテンツである。特に日本漫画を探そうと苦労しなくても、韓国の書店の漫画売り場の七割は日本漫画の翻訳版だから。
 「漫画といえば日本」と定評があるため、一般視聴者の中には漫画が原作だと聞くと、日本漫画に違いないと思い込む人も多い。ヒットドラマ『宮』は、韓国王室の架空のロイヤルウェディングを描いたパク・ソヒの少女漫画だったのに、「日本の漫画を韓国に置き換えたんだろ?」という声をよく聞いた。

日本漫画が「わかる」読者たち
 ここまで日本漫画が浸透しているのは今に始まったことではない。朝鮮戦争後、復興とともに漫画が出版されはじめた時、駐留米軍を通じてアメリカンコミックも入ったのだが、大勢を占めたのは日本漫画だった。韓国の読者は日本の漫画のおもしろさがわかる人たちだったのである。1960年代、『サザエさん』的な家族漫画の中から、特に純情な少女を主人公にした漫画が現れ、「純情漫画」と呼ばれた。韓国で少女漫画のことを純情漫画というのは、そういう理由で、今ではヒロインが純情かどうかは関係ない。日本語で純情漫画ではちょっと恥ずかしい気もするが、韓国語で少女漫画というと「乙女漫画」ぐらいの意味なので、語感の違いはお互いさまである。
 そんな韓国少女漫画第一世代が瞳の大きな愛らしい少女を描き、少女漫画黄金期を築いたが、彼女たちが影響を受けたのは、手塚治虫・水野英子・わたなべまさこ等日本の漫画家だった。

『キャンディ』ショック
 しかし、当時は軍事クーデタで政権を握った朴正熙の時代。漫画に限らずあらゆる創作活動や言論は政府の監視を受けていた。演劇・映画・放送番組のシナリオ、音楽レコードの歌詞、出版物の原稿は政府の検閲を受け、問題箇所を修正・削除しなければ世に出せなかったのである。
 漫画の場合、一つのコマの中で男女が二人きりなのはいけない、ひざ上スカート・長すぎる前髪は風紀上問題、アクセサリーの多い派手な絵は奢侈心を刺激する、という厳しい基準を要求された。漫画とは「大人が小学生に与える健全な読み物」として位置づけられていたため、絵・ストーリー・メッセージともに、そこからはみだすことは許されなかった。だから登場人物はみんな良い子、大人に向かって悪態をつく悪ガキなど存在してはいけなかった。いわんや社会問題を扱うことは、朴政権の支配にケチをつけたとみなされ弾圧された時代である。だから漫画の中で貧しさとは甲斐性無しの父親のせいであり、社会矛盾を示唆するなどもってのほかだった。これでは漫画のテーマは深まらない。それで「薄幸の善良な少女が生き別れのお母様に再会して幸せになる」以上の作品が描けない少女漫画は70年代にはマンネリ化し、「漫画なんてつまんない」と読者が離れていった。 そんな行き詰まりを打破したのが、TV放送で大ヒットした日本のアニメ『キャンディ・キャンディ』であった。

(次回へ続く・・・)


『ベルサイユのばら』正規翻訳版。検閲済印が右下にある©大元動画


『砂の城』(一条ゆかり)。検閲を通していない海賊版


『ベルばら』再来!?キム・ヘリンの革命物語『北海の星』©世宇文化社

佐島顕子(さじまあきこ)
1963年生まれ。福岡県出身。九州大学文学部大学院(史学)博士課程中退。福岡女学院大学人文学部現代文化学科准教授。
共著『漫画研究の扉』(日下翠編、梓書院)など。パク・ソヒ『らぶきょん~Love in 景福宮』、『小説・らぶきょん』、チョン・ヘナ『タムナ~Love The Island』、イム・ジュヨン『シエル』等の韓国少女漫画を新書館から翻訳。


※この記事は、(公財)福岡アジア都市研究所「都市情報誌fU+」第9号
 (2010年6月25日)「アジア文化」から転載しています。

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