福岡トレンド

2012.06.04/COLUMN

アジアの文化 -日韓少女漫画事情1(2/2)

韓国で愛される日本の少女漫画
―1960年代から現代まで、日本漫画はいつも人気―
福岡女学院大学人文学部現代文化学科 准教授 佐島 顕子


『キャンディ』ショック
 韓国では日本の大衆文化が禁止されていたといわれるが、禁止されていたのは日本語のままの文化であり、翻訳された文化なら問題なかった(もちろん韓国作品と同様検閲され、政府が問題とした部分は修正削除されたが)。
 アニメ『キャンディ・キャンディ』の人気により、水木杏子・いがらしゆみこ原作の漫画も1979年海賊版が出版された。後に漫画家になった黄美奈は「笑顔はこれ、怒った顔はこれ、と決まった表現で済ませいた韓国漫画に対して、『キャンディ』は人物の多様な表情を描き分け、映画のような演出をすることにショックを受けた」と語る。
 『キャンディ』のような日本漫画が売れることに気づいた業者らは、日本から漫画本を買い込むとセリフをハングルに貼り替えて印刷してばらまいた。こうした海賊版を韓国政府が摘発しだすと、業者は韓国人漫画家に、日本漫画をそっくりに写させた。作者名を韓国人名に変え、ストーリーや背景を韓国におきかえ、日本作品であることがわかる描写、規制をはみだす性的・暴力シーンは省いたり書き換える。ロシアの社会主義革命を扱った『オルフェウスの窓』(池田理代子)は、フィンランド独立運動におきかえる。ここまですれば、検閲官が日本の漫画を読んでない限り、海賊版・写しだとはわかるまい。そのため80年代は、膨大な作品が韓国作品として流通してしまった。水野英子『白いトロイカ』はキム・スク名義、池田理代子『ベルサイユのばら』もチョン・ヨンスク名義で出版された。やがて検閲官も事情に気づくと、今度は漫画といえばすべて日本の写しではないかと疑い、本物の韓国作品が出版困難になったこともあった。(ちなみに1990年代に民主化政策が進んだ韓国で、それら海賊版・写し漫画は消え、今ではライセンスをとった翻訳版がほとんどである)

大好きなのは日本の漫画
 80年代に韓国の少女たちを夢中にさせたのは、70年代の日本の少女漫画だった。萩尾望都・竹宮恵子など「24年組」の活躍により、少女漫画の質・量が飛躍的に向上した黄金時代である。わたなべまさこ『ガラスの城』、萩尾望都『ポーの一族』、竹宮恵子『ファラオの墓』、木原敏江『アンジェリク』、池田理代子『オルフェウスの窓』、美内すずえ『ガラスの仮面』、あしべゆうほ『デイモスの花嫁』などが一挙に韓国に流れ込んだ以上、市場は日本漫画に席捲された。
 何も知らない少女たちは、この大量の日本漫画を韓国作品だと信じて愛読し、すべてを吸収して創作のお手本とした。後に真実を知った彼女たちの、だまされていたという苦い思いと、作品への感動が混ざり合う気持ちは複雑である。
 80年代前半にデビューした韓国少女漫画家の初期作品には、日本の作品の影響が色濃く表れている。たとえばキム・ヘリンのデビュー作『北海の星』には、池田理代子作品と同じデザインのドレス、同じ髪型、同じポーズが散見され、同じ70年代日本少女漫画を愛読した者としては妙な懐かしさと嬉しさを感じる。「あなたも『ベルばら』『オルフェ』が大好きだったのね」という一種の同志意識だろうか。
 模倣の段階を通らなければオリジナル創作には至らない。英国の作家グレアム・グリーンも、少年時代に強い印象を受けた冒険小説のワンシーンが忘れられず、自分の作品の中で同様のシーンを一度書いてやっと自由になれたと語る。日本の漫画家も、手塚治虫以来の先行の漫画作品を模倣し影響を受けて発展した。韓国漫画界も、日韓両国の先輩作家の作品蓄積の上に発展したのである。そして今2000年代、韓国少女漫画の先端をリードする作品群は、非常に個性的である。
 今、韓国の読者たちは日本の人気漫画と自国の漫画の両方を自然に楽しんでいる。ひょっとしたら漫画大国の日本の方が、海外漫画にふれにくいのかもしれない。「そっちの漫画、面白かったら、ちょっと見せて!」。漫画交流の原点はそんな貪欲な読者心理かもしれない。


猫が個性的な『CAT』(キム・ヒョンジュン)©ソウル文化社


少女漫画誌『WINK』。『コイバナ!~恋せよ花火~』(ななじ眺)が表紙を飾る
©ソウル文化社

佐島顕子(さじまあきこ)
1963年生まれ。福岡県出身。九州大学文学部大学院(史学)博士課程中退。福岡女学院大学人文学部現代文化学科准教授。
共著『漫画研究の扉』(日下翠編、梓書院)など。パク・ソヒ『らぶきょん~Love in 景福宮』、『小説・らぶきょん』、チョン・ヘナ『タムナ~Love The Island』、イム・ジュヨン『シエル』等の韓国少女漫画を新書館から翻訳。


※ この記事は、(公財)福岡アジア都市研究所「都市情報誌fU+」第9号
  (2010年6月25日)「アジア文化」から転載しています

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