福岡トレンド

2012.09.14/COLUMN

アジアの文化 -日韓少女漫画事情2(2/2)

日韓少女漫画事情2
日本で読まれる韓国少女漫画―気になる韓国最新作品、楽しさの共有―
福岡女学院大学人文学部現代文化学科 准教授 佐島 顕子


フツーの女子高生が皇太子妃に!
 そして『らぶきょん』が登場する。現在23巻まで途切れず翻訳出版されたのは、韓国少女漫画初の快挙である。『らぶきょん』は韓国の隔週刊雑誌WINKの連載漫画で、7回分ずつまとめて修正加筆されたものが単行本として出版される。日本版との時差は最短で一か月。訳者の私は本国単行本出版を待っていては間に合わないので、東京の韓国書籍専門店・三中堂からWINK誌が届くたびに掲載ページを下訳してスタンバイしている(図版2・3)。新しい、ということはそれほどに意味が大きいのだ。
 『らぶきょん』の魅力はまず、ロイヤルウェディングというわかりやすい主題だ。今もし韓国の王室が続いていたら、という仮定のもと、ある日突然皇太子妃に選ばれてしまったフツーの女子高生チェギョンがヒロインである。
 今時の女子高生が宮中で引き起こす場違いギャグが楽しく読めるが、ラブストーリーの部分はせつなく感動させる。自己チューな王子様育ち、でもイケメンの皇太子が、ありのまま・ぶっちゃけキャラのチェギョンに翻弄されるうちに、ひとの気持ちを思いやり、自分の気持ちを素直に表現するすべを覚えて成長する。そして、ヒロインのチェギョンも、愛するがゆえに自分が選んだ道に立ち続ける。彼女はいつ幸せになれるのだろうかと痛々しい一方、自分が本当に大事だと思う側に立ち続ける姿にすっきりとした快感も感じられる。


あこがれと好奇心、『タムナ』
 『タムナ』(図版5)は、17世紀、東洋趣味のイギリス人美青年と日本人貿易商ヤンが長崎をめざしたものの、難波して済州島(タムナ)に漂着する。彼らを助けたのは、アワビ捕りの海女ボジンや都の貴族、退位した元国王。日朝英の登場人物たちは言葉はろくに通じない。同じ朝鮮民族でも都と島では完全に異文化で、理解しあえない。それでも登場人物たちが体当たりでコミュニケーションを取ろうとする努力が、けなげで楽しい。
 また、鎖国日本を飛び出し、国境を越えてアジアとヨーロッパをまたにかけるヤンという存在も魅力的だ。頭脳明晰な都の貴族は教養として日本語を勉強しているし、海女の少女は済州島を出て外国に行ってみたいと夢をみる。人為的な国境など関係なく、あこがれと好奇心で「お隣」にアプローチする彼らの姿は、きわめて今日的である。

福岡で韓国少女漫画を読む
 福岡からソウルは、東京よりも距離的に近いし、航空運賃も安い。そんな近さが素直に感じられる福岡では、「異文化共生」という言葉もリアリティがある。「漫画」という共通のエンターテインメントを通してお隣の人々の価値観やライフスタイルを知り、お隣の人々が私たちをどう見ているかも知る。タムナ』では、熱血型の登場人物が大騒動する中でシニカルに場を締める役は日本人ヤンが担っている。お互いの楽しい所・面白い部分を共有して、それぞれの人生の幅を広げ、より自由で柔軟な考え方ができるとしたら。
 授業で韓国漫画をとりあげると最初に必ず「韓国漫画と日本漫画の違いは何ですか?」という質問があがる。しかし「違い」を指摘する前には、まず共感が成り立っていなければならない。学生たちは作品に引き込まれて楽しんでいるうちに、あえて違いを見つけようという意識は薄れていく。たしかに日韓は異文化社会である。しかし福岡から世界で一番近い国はどこだろう。もっとも遠い国以上に異なるとは考えにくい。私たちが共有できる領域はかなり広いのである。


図版1
ふと共感を覚え、心いやされる『彼女たちのクリスマス』(ハン・ヘヨン)
©ハン・ヘヨン/小学館


図版2
韓国の本は横書きなので翻訳版も横書きです。『らぶきょん』©新書館


図版3
翻訳作業はポストイットを貼って書き込み。『らぶきょん』
©パク・ソヒ/ソウル文化社


図版4
随所に深いセリフが光る、きれいな作品『シエル』©新書館


図版5
元気いっぱい済州島ラブコメディ『タムナ』©新書館

佐島顕子(さじまあきこ)
1963年生まれ。福岡県出身。九州大学文学部大学院(史学)博士課程中退。福岡女学院大学人文学部現代文化学科准教授。
共著『漫画研究の扉』(日下翠編、梓書院)など。パク・ソヒ『らぶきょん~Love in 景福宮』、『小説・らぶきょん』、チョン・ヘナ『タムナ~Love The Island』、イム・ジュヨン『シエル』等の韓国少女漫画を新書館から翻訳。


※ この記事は、(公財)福岡アジア都市研究所「都市情報誌fU+」第10号
 (2010年12月17日)「アジア文化」から転載しています

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